ぺージ数の多い文書は、通常いくつかの章から構成されます。それぞれの章は、さらにいくつかの節から構成されます。それぞれの節は、しばしばさらにいくつかの項目から構成されます。このように、ぺージ数の多い文書はツリー型の構造を持っています。そして、読み手は、自由に目次を見たり、前後のぺージを見ることができます。このため、文書全体の構成がどのようになっていて、自分が今読んでいるのはどの部分かということを、読み手は比較的容易に把握することができます。
一方、スライドは、物理的には1本の流れを形作っています。しかし、内容から見ると、スライドもツリー型の構造を持っています。ただ、文書と異なり、スライドの場合は、聴き手が目次や前後を読み返すことができません。プレゼンターのペースに合わせて、受動的に受け取ることしかできません。スライド全体の構成がどのようになっていて、自分が今見ているのはどの部分かということを、聴き手が把握するのは容易でありません。したがって、スライド全体の構成がどのようになっていて、聴き手が今見ているのはどの部分かということがわかるようにする(=構造化)責任が、プレゼンターにあります。
このスライドの構造化にアニメーション・画面切換効果が役立ちます。
表紙のスライドの次に目次のスライドを示して、「今回ご報告する内容はこのようになっています」などと説明する方がよくおられますが、その目次を、聴き手がずっと記憶し続けることはできません。聴き手が自由に目次のスライドに戻ることができるわけでもありません。したがって、始めに目次を見せられても、それだけではほとんど意味がありません。大まかな構成がわかりきっている場合、たとえば、研究発表のように、背景および目的、実験方法、実験結果、考察、結論という構成がわかりきっている場合は、さらに意味がありません。
目次もアニメーション・画面切換効果と組み合わせると、構造化に役立ちます。
研究発表の場合を例にとって説明します。表紙のスライドの次に目次のスライドを示して、「今回ご報告する内容はこのようになっています」と言うまでは同じです。次に、目次のうち「背景および目的」をアニメーションでハイライトさせます。続いて背景および目的の説明に入ります。背景および目的の最後のスライドと次のスライドとの間に、「がらりと変わる」という印象を与える画面切換効果をつけます。
その次に「背景および目的」がハイライトしている目次のスライドを入れます。そして、アニメーションで、ハイライトを「背景および目的」から「実験方法」に移動させます。続いて実験方法の説明に入ります。
これを、実験結果、考察、結論まで繰り返します。このようにすると、章の区切りが明確になり、区切りが来るたびに、スライド全体の構成がどのようになっていて、今どの部分が終わって、次はどの部分かということを、ビジュアルに聴き手に伝えることができます。
講演時間が1時間に及ぶような大規模なプレゼンテーションの場合、この方法を入れ子にして使うこともできます。ある章の説明において、その章の中だけの目次を上の方法で提示するわけです。
章/節/項という系統的な構造でなく、本筋を説明する途中で、少し脇道に入り、また本筋に戻りたいという場合があります。このような場合には、ズームインおよびズームアウトを組み合わせると効果的です。スマートフォンでは、あるアプリをタップすると、そのアプリの画面がズームインします。ホーム画面に戻るときは、アプリの画面がズームアウトしてホーム画面に戻ります。多くの聴き手がこのインターフェースに慣れています。そこで、本筋から脇道に入るときにズームインの画面切換効果をつけ、脇道から本筋に戻るときにズームアウトの画面切換効果をつけると、「脇道に入った」「本筋に戻った」ということを聴き手に直感的に伝えることができます。
このとき、脇道のスライドが終わった後に、脇道に入る直前と同じ本筋のスライドを入れておくのを忘れないでください。そうしないと、「戻った」という印象を与えることができません。目次スライドの使い方にしてもそうですが、流れが分岐する直前と同じスライドを、再合流のところに入れておくことが肝心です。
並列関係にある複数の情報がひとまとまりになっているのに、1枚のスライドに収まりきらない場合があります。たとえば、結論において、言いたいことが3つあるが、言葉だけではわかりにくいので、1項目につき代表的な図を1枚ずつつけたい、そうするとスライドが3枚になるというような場合です。しかし、原則として、スペース的に1枚に収まらないからという理由で、ひとまとまりの内容を2枚、3枚に分けてはいけません。どのスライドとどのスライドとがひとまとまりで、どのスライドから次の内容が始まるということが、聴き手にわからないからです。
このようなときには、複数のスライドの間を、前のスライドが上に動いて消え、次のスライドが下から上がってくる画面切換効果(プッシュ)でつなぐとうまく行きます。こうすると、文書の箇条書きを読んでいるように、あたかも縦に細長い1枚のスライドを上から少しずつ見ているように見え、「ひとまとまり」感を与えることができます。
どの画面切換効果を使うにしても、注意していただきたいのが所要時間です。画面切換効果を使わなければ、一瞬で次のスライドに変わりますが、画面切換効果を使うと時間がかかります。この時間は設定で変更できるようになっています。初期設定の時間は概ね長すぎ、スライドショーを実行すると間延びした感じになりがちです。画面切換効果は脇役ですから、画面切換効果をじっくり見てもらう必要はありません。スライドショーを試しに実行してみて、プレゼンテーションのテンポを損なわない時間に修正しましょう。
「それぞれの瞬間に理解が完結しなければならない」「理解してほしいとおりに見せる」という原則から、今見せているスライドと、すでに消えてしまった直前のスライドとを、聴き手に比較させてはいけません。聴き手は直前のスライドを覚えていられないので、比較したいなら、比較する2つのコンテンツを1枚のスライドで示すべきです。
比較したいコンテンツが図や写真である場合、1枚のスライドに2つ並べると、それぞれが小さくなり、わかりにくくなることがあります。このような問題は、アニメーションを使って解決できます。
始めに見せる図を図A、次に見せる図を図Bとします。まず、始めのスライドいっぱいに図Aを示して説明します。次に、2枚目のスライドいっぱいに図Bを示して、図Bを説明します。ここまでで、図Aおよび図Bとも、それぞれ単独については、聴き手の理解が完結します。
次に、アニメーションで図Bを縮小し、スライドの右半分のスペースに収めます。続いて、あいた左半分のスペースに、あらかじめ半分に縮小した図Aを、左端からスライドするようにアニメーションで出現させます。こうすると、左端から現れた図が、直前に見た図Aであるということが、聴き手に直感的にも理解してもらえます。最終的に、1枚のスライドに図Aおよび図Bが並び、比較することができます。この状態では、図が小さいので細部は見にくくなっていますが、それぞれの図についてはすでに理解できているので、ほとんど差し支えありません。
前後のスライドの間をつなぐ説明が、どうしても長くなる場合があります。このようなとき、スライドが交換されたら、当然そのスライドの説明が始まるものと聴き手は期待するので、次のスライドを見せてからつなぎの説明を行うと、スライドと口頭説明とが食い違うことになり、聴き手が混乱します。前のスライドを見せたままつなぎの説明を行い、それが終わってから次のスライドに換えるようにします。
たとえば、前のスライドで図を示して説明した後、その図のデータに為替レートの変動を補正した結果を次のスライドで示したいとします。このようなときは、前のスライドを見せたまま「この図に為替レートの変動を補正すると」と言ってほんの少し間を置きます。すると、聴き手としては「為替レートの変動を補正したらどうなるのだろう」と身を乗り出したくなります。そこで次のスライドを提示すると、聴き手の興味がピークに達するタイミングとスライドのタイミングとをばっちり合わせることができます。
いくつかのスライドをつないで手順や構造などを説明する際、時間の流れが行ったり来たりすると、聴き手が頭の中で前後関係を再構成しなければなりません。時間が一方向に流れるようにスライドを構成すると、わかりやすくなります。
1枚のスライドの中で、いくつかのセンテンスをつなぐときも同様です。
【悪い例】鍋に水を入れ、沸騰させる。沸騰したら野菜を入れる。にんじんはほかの野菜より時間がかかるので、沸騰する前に入れる。水はミネラルウォーターを使う。
【よい例】ミネラルウォーターを鍋に入れ、火にかける。にんじんはほかの野菜より時間がかかるので、沸騰する前ににんじんを入れる。沸騰したら残りの野菜を入れる。
プレゼンテーションが終わったら、そのことをスライドおよびトークで宣言しましょう。最後に「ご清聴ありがとうございました」と書いたスライドを用意します。「ご静聴」でなく、「ご清聴」です。それまでと全く異なる背景がよいでしょう。トークとしては、「ありがとうございました」だけで充分です。