プレゼンテーションの達人になる方法

実技研修室3■説明原稿および練習

練習を徹底的に

 当然ですが、練習をしっかり行いましょう。リハーサルを少なくとも3回は行い、指導者からダメ出しをしてもらいます。リハーサルで指摘されたことは必ずメモし、確実に解決してから、次のリハーサルを受けます。
 「スライド作成に時間がかかって、リハーサルする時間がなくなった」という言い訳を聞くことがありますが、発表本番の日が決まっているはずです。本番の日から逆算して3回目のリハーサル日、それに向けた準備期間、2回目のリハーサル日、それに向けた準備期間、1回目のリハーサル日を決め、最初のリハーサルに向けてスライド作成に着手すべきです。
 特にコンペの場合、コンペで勝ち取ろうとするプロジェクトを遂行する難易度に比べ、プレゼンテーションの準備を計画的に進める難易度は、はるかに低いはずです。プレゼンテーションの準備すら計画的に進められないチームが、コンペに勝てるわけがありません。
 初心者の最初のリハーサルでは、所要時間10分程度のプレゼンテーションでも、ダメ出しに2~3時間かかることが珍しくありません。それだけ、初心者がぶっつけ本番でプレゼンテーションに望むのは、無謀だということです。
 中堅になると、部下のプレゼンテーションを指導する機会も増えます。職場では、時間外労働の規制もあり、ダメ出しに時間を充分かけられないかもしれません。限られた時間でダメ出しせざるを得ない場合は、重要度の高いこと、すなわち内容の取捨選択、全体の構成に関することから優先的に指摘して行きます。

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説明原稿を作る

 スライドと並行して、説明原稿も作りましょう。リハーサルでは説明に対してもダメ出しされますから、説明に対する指摘事項は説明原稿に書き込んで、修正します。
 デジタル・スライド・アプリケーションには、プレゼンター用の画面にスライドと説明原稿とを同時に表示する機能がありますが、説明原稿が見にくいので、ワードプロセッサ・アプリケーションで説明原稿を書き、紙に印刷することを薦めます。プレゼンテーションの環境では、周囲が暗く、通常より離れた距離から原稿を見なければならないので、通常の印刷物よりはるかに大きな文字で書いておきます。また、指摘事項を書き込むために、行間およびマージンをたっぷりとっておきます。
 原則として、スライド1枚に1ぺージを割り当てます。
 リハーサルの段階では、説明原稿を読み上げてかまいません。うろ覚えで説明がコロコロ変わるようでは、ダメ出しができません。何度でも同じ説明を再現できるよう、説明原稿をきちんと読み上げてください。
 説明原稿が同じでも、習熟するにつれて所要時間が短くなります。したがって、初期のリハーサルでは、所定時間を10%ほど超過するくらいでちょうどです。
 何度かリハーサルを繰り返して、最終原稿ができたら、最終原稿を暗記し、本番では説明原稿を見ないで説明できるようにします。

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出だしをスマートに決める

 「ただいまご紹介いただきました本社法人営業部の北川です」とか、「今から、『ダーラム機関における推力/速度バランス』と題して、機関技術部の妻夫木が発表いたします」とか、「今から、『武蔵小杉ショッピングモール増床計画の効果および課題』について発表を始めます」などという挨拶でプレゼンテーションを始めていませんか。こういうダサい挨拶が、あなたの好感度を台無しにしています。
 ダサい理由は、わかりきったことに時間を浪費しているところにあります。プレゼンテーションの冒頭で緊張する瞬間であることはお察ししますが、多くの場合、聴き手はあなたのプレゼンテーションを、残念ながらさほど楽しみにしていません。次から次へとプレゼンテーションを聞き続けて、疲れているかもしれません。「早く終わって昼休みにならないかなあ」と思っているかもしれません。そういう状態で、わかりきったことを新しいプレゼンターが挨拶で言うと、「ああ、またわかりきったことをくどくどと聞かされるのか」と滅入ります。
 司会者が次のプレゼンターを紹介しているはずですから、「ただいまご紹介いただきました」に決まっています。ほかに誰もいるはずがありません。プレゼンテーションのタイトルは、まずプログラムに記載されているし、次に司会者が紹介しているし、さらにスライドの1枚目にも提示されています。何をさらにプレゼンターが繰り返す必要があるでしょうか。
 このように、わかりきったことを挨拶で言うのは、「私はプレゼンテーションがへたです」と宣伝するようなものです。
 さらに、「今から…を始めます」も思わせぶりです。まるで、待ちに待った2~3時間の大講演が始まるみたいです。プレゼンターの心情としては「大舞台」の始まりなので、「さあ、いよいよ今から始めるぞ」と自分に言い聞かせたくなる気持ちはわかりますが、聴き手にとっては多くのプレゼンテーションの一つに過ぎません。このため、「今から…を始めます」と言うと、「こいつは自分のことで頭がいっぱいなのだな」という印象を与えます。
 「北川です」「妻夫木です」などと名前だけ簡潔に名乗り、すぐ本題に入りましょう。緊張感があって、聴き手のモチベーションを保つことができます。

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です・ます体

 説明原稿を書く際に、レポートでも書くように錯覚するのか、「だ・である」体で書く方があります。
 プレゼンテーションの聴き手が、プレゼンターから見て、全員親しい目下の人ばかりということはあり得ません。説明は「です・ます」体で行わなければ、失礼です。

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できるだけ和語で

 漢語には同音異義語が多いので、説明を耳で聞くプレゼンテーションに漢語を使うと、誤解されたり、意味不明になることがあります。
 たとえば、「工程変更の可否を上司に照会した」という文章は、文書では何の問題もありませんが、プレゼンテーションでは「コーテーヘンコーのカヒをジョーシにショーカイした」と聞こえています。「コーテー」が「高低」なのか「工程」なのか「行程」なのか、はたまた「カヒ」が「瑕疵」の聞き違いか「可否」なのか、聴き手にとっては難解です。「工程を変えてよいかどうかを上司に尋ねました」と言えば、わかりやすくなります。
 プレゼンターおよび聴き手のいずれもよく知っている専門用語はかまいませんが、一般的な漢語は、できるだけ和語に言い換えるようにしましょう。

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名詞句を述語で言い換える

 コミュニケーションにおいて、情報の最小単位は「何がどうした」「何をどうする」「何にどうする」という構造を持っています。「何」だけでは、情報を与えることができません。
 たとえば、外国為替において「円が上がった」と言えば、一つの情報になっていますが、「円」だけでは何の情報も与えません。また、「円高になった」と言えば、情報を伝えることができますが、「円高」という名詞だけでは、円高がどうしたのかわかりません。
 プレゼンテーションにおいても、円高がどうしたというところまで聞いて初めて理解が完結するので、「円高」の部分を長い名詞句で説明されると、「どうした」を聞くまで理解が完結しません。しかも、「どうした」を聞くまで、長い名詞句の内容を記憶し続けなければなりません。したがって、長い名詞句を避け、できるだけ「何がどうした」「何をどうする」「何にどうする」という短い述語の組み合わせに言い換える方がわかりやすくなります。
 たとえば、航空機の操縦における「ローテーション速度」を定義する文章として、次の2つを比べてみましょう。

【悪い例】操縦桿操作による機首の引き起こし開始速度

【良い例】操縦桿を引いて機首を引き起こし始める速度

 「ローテーション速度」という名詞の定義なので、全体としてはどちらも長い名詞句になっていますが、名詞句の中身が異なります。悪い例には、「どうする」「どうなる」という述語が一つもありません。このため、この長い名詞句を始めから終わりまで記憶しなければ、理解に至りません。
 一方、よい例では、「操縦桿を引いて」を読んだ時点で、「うん、操縦桿を引くんだな」と一つ理解が完結します。次に「機首を引き起こし始める」を読んだら、「うん、機首を引き起こし始めるんだな」と二つ目の理解が完結します。しかも、一つ目の情報が既に頭に入っているので、「操縦桿を引くという操作によって機首を引き起こす」という前後の情報の関係まで理解できます。最後に「速度」を読んだ時点では、すでに(1) 操縦桿を引く、(2) 機首を引き起こし始める、(3) 操縦桿を引くという操作によって機首を引き起こすことができる、という3つの情報が頭に入っているので、「ああ、そういう速度ね」と納得することができます。

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「…になります」禁止

 「なる」は、あるもの(A)がべつのもの(B)に変わることを表す動詞です。「銀杏の葉が紅葉すると、黄色になります」「多めに作って冷凍しておくと、サッと電子レンジをかけて、ちょっとした小鉢になります」などのように使います。
 たとえば、「この場合は、パスポートが最も強力な身分証明になります」という表現は適切です。ある状況において、本来は身分証明でなかったパスポートが身分証明として機能することを表現しているので、確かにA=パスポートがB=身分証明に変わったからです。しかし、「この場合、最も強力な身分証明はパスポートになります」という表現は誤りです。パスポートはもとからパスポートであり、A=身分証明がB=パスポートに変わったのではありません。正しくは「この場合、最も強力な身分証明はパスポートです」と表現すべきです。
 「…です」と言うべきところを「…になります」と言うのが丁寧な言い方だと誤解している方が多いのですが、「…になります」はバイト言葉またはファミレス言葉と呼ばれ、日本語の乱れとされています。
 プレゼンテーションにおいても、「補正した結果がこの図になります」「これが破断面の写真になります」のような言い方は不適切です。「教養のない人」「教育を受けていない人」という印象を与えます。「補正した結果がこの図です」「これが破断面の写真です」が正しい言い方です。

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グラフの説明は横軸、縦軸から

 グラフの説明をするときは、まず座標軸の説明から始めます。座標軸の意味がわからないと、聴き手がグラフの意味を読み取れないからです。さらに原則として、まず横軸、次に縦軸という順序で座標軸を説明します。注目するパラメータや条件を横軸に取り、調べた結果を縦軸に取るのがグラフの基本なので、横軸から縦軸へという思考の流れと合わせたいからです。
 たとえば、「この図において、横軸はユーザーの年齢層です。縦軸は一日当たりなんらかの買い物に費やす平均時間です」「この図は、横軸に西暦を取り、縦軸に新卒就職者総数に占める学歴別割合を取って、就職した人の学歴構成の推移を示しています」のように言います。
 なお、説明するとき、グラフのことを「グラフ」と言わず、「図」と言いましょう。理由は二つあります。
 一つは、「図」の方が短いからです。「グラフ」=3字でも「図」=1字でも大して違わないと思われるでしょうが、何度も使う言葉なので、字数が多いと講演時間をけっこう消費します。
 もう一つは、「グラフ」と言うと、「フ」の母音が弱いため、聴き手が「フ」を聞き逃し、「グラ」と聞こえる恐れがあるからです。

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普遍的な言葉を使う

 理工系のプレゼンテーションでは、試料符号・試料名が出てきます。実験に関わったプレゼンターにとって、試料符号は自分の住所や生年月日と同じくらいなじみ深く、試料符号の意味が完全に頭に入っていることでしょう。このため、つい試料符号を使って説明しようとしがちです。
 しかし、聴き手にとって、試料符号は暗号のようなものです。「NR材は400℃あたりから急激に強度が下がるのに対し、VM材は900℃までほとんど強度低下が見られません」と説明されても、聴き手はNR材とVM材で何が異なっていたのかを覚えていられないので、何が400℃以上における強度の違いをもたらしたのかを理解できません。
 「通常成分の試料では400℃あたりから急激に強度が下がるのに対し、バナジウムおよびモリブデンを添加した試料では900℃までほとんど強度低下が見られません」と説明すれば、理解できます。このように、できるだけ試料符号を使わず、試料符号の違いを普遍的な言葉で説明するようにしましょう。
 実験に用いた計測器・装置についても同様です。たとえば、測定方法の説明において「FFT分析には、大野測器のEF-9200を用いた」と説明するのはかまいませんが、実験結果や考察の説明においても、「EF-9200がどうのこうの」と言うと、聴き手は「EF-9200」が何の型番だったかを覚えていられません。「FFT分析器」と言えば、理解しやすくなります。
 プレゼンテーションが成功するためには、一人でも多くの聴き手にわかってもらうことが必要です。そのためには、一人でも多くの聴き手が知っている普遍的な言葉を使うようにしましょう。
 なお、自社と競合他社とを比較するプレゼンテーションでは、たとえ社内のプレゼンテーションであっても、スライドに競合他社の固有名詞を使わないように注意しましょう。固有名詞をスライドに出すと、なにかとトラブルのもとです。

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言葉のダイエット

 文書では、正確であることが最優先なので、正確を期するために冗長になっても全く問題ありません。しかし、プレゼンテーションの説明原稿を書くときは頭を切り換えてください。説明原稿では、簡潔でわかりやすいことが最優先なので、冗長になってはいけません。たとえば、「この」「その」「これ」「それ」は文書では御法度でしたが、説明原稿では、簡潔でわかりやすくなるならどんどん使ってかまいません。
 説明原稿では、なくても理解に支障のない言葉(ムダ言葉)を徹底的に削除します。1字でも、削れるものは削ります。ムダ言葉を徹底的に排除する理由は3つです。
 第1に、説明が簡潔になり、わかりやすくなります。
 第2に、時間を節約することができます。プレゼンテーションを準備するときは、伝えたいことがたくさんあって、限られた時間にそれらをどうやって収めるかに頭を痛めるのが普通です。したがって、ムダ言葉を削って時間を節約できれば、ムダ言葉よりもっと重要な内容を盛り込める余裕が作れます。
 第3に、説明中に噛んで立ち往生するリスクを減らすことができます。達人のプレゼンテーションでは、プレゼンターも聴き手も内容に集中しているので、噛んでも聴き手は気づかないし、プレゼンターもすぐ言い直して支障なく進みます。しかし、初心者のプレゼンテーションでは、噛むとプレゼンターがパニックになり、プレゼンテーションが中断することがあります。中断時間が長引くと、所定の講演時間を超過する恐れも出てきます。重要な説明の途中ならしかたありませんが、ムダ言葉の途中で立ち往生したのでは目も当てられません。

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質問に対する回答を準備

 遅くとも最後のリハーサルのときまでには、予想される質問リストを作り、回答を準備しましょう。必要なら回答用のスライドも作っておきます。
 初心者の中には「どうか質問がありませんように」と祈りたい方がおられるかもしれませんが、質問が全くないのも淋しいものです。
 質問対策の裏技をお教えしましょう。質問を誘導するのです。まず、してほしい質問のリストおよびしてほしくない質問のリストを作ります。それぞれ3~4個もあれば充分です。してほしい質問については、プレゼンテーションの中でわざと情報を伏せたり、気を引くように説明したりして、質問したくなるように仕向けます。
 してほしくない質問については、質問してもしかたないと思わせるようにプレゼンテーションで先手を打っておきます。内容の弱点や不備を質問で指摘されるとプレゼンテーションの評価が下がりますが、プレゼンターが自らプレゼンテーションの中で言及し、「今後の課題」にしてしまえば問題ありません。
 伝えたい内容が所定の講演時間にどうしても収まらないときに、質問時間を利用するという裏技もあります。たとえば、伝えたい内容が大別して4つあり、4つすべて盛り込むと時間をオーバーし、3つでは時間が余る場合があります。このようなとき、内容としては4つ全部盛り込みつつ、本来はプレゼンテーションで説明すべきであるもののさほど重要でないいくつかの情報を、プレゼンテーションが所定の講演時間に収まるようになるまで、間引いていきます。こうすると、間引いた情報を聴き手が知りたければ質問されるので、そのときに答えればよいのです。質問がなければ、間引いた情報に聴き手の関心がなかった、すなわち、間引いても問題なかったということです。

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